むかしむかし、ある国に、嫉妬深い王妃が住んでいました。
王妃は国王の後妻で、亡くなった前妻とのあいだにうまれた白雪姫を憎んでいました。
王妃は真実を語る鏡にたずねました。
「この国でいちばんうつくしいのは誰だ?」
王妃はけっしてうつくしくなくはなかったものの、白雪姫ほどではありませんでした。
鏡は気をつかって「それはあなたです」と答えました。
「ほんとうか? 白雪姫がいちばんではないのか?」
「ほんとうです。あなたがいちばんです」
王妃は、鏡の言葉に白々しさを感じましたが、とりあえず納得しておきました。
後日、別の王族が、
「この国でいちばんうつくしいのは誰?」
と鏡にたずねました。
鏡は気をつかって「それはあなたです」と答えました。
さらに後日、また別の王族が、
「この国でいちばんうつくしいのは誰?」
と鏡にたずねました。
鏡は気をつかって「それはあなたです」と答えました。
皆に調子の良いことを言っているのに気づいた王妃と王族たちは、
「ごまかすな。ほんとうのことを言ってみよ」
と鏡を責めました。
鏡は「あんなに気をつかってやったのに、なんだ」とすねてしまい、口をきかなくなってしまいました。
怒った王妃は鏡をこわすことにしました。
くだかれる瞬間、鏡の絶叫が響きました。それは、誰も聞いたことのない、心からの、嘘いつわりのない、ほんとうの鏡の叫びでした。
鏡をうしなった王妃は、前にも増して猜疑心と嫉妬心が強くなりました。
白雪姫は奴隷のようにこき使われ、若くして失意のうちに亡くなりました。
王妃は白雪姫よりも長く生きましたが、認知症を患い、晩年は寝たきりで、口もきけぬままに亡くなりました。
鏡がもっと素直で正直であったなら、ふたりともちがう人生がひらけたろうに、まったく気の毒なことです。