日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

すっぱいブドウ

むかしむかし、あるところに、一匹のキツネが住んでいました。

ある日、キツネは農夫がブドウを収穫しようとしているところに出くわしました。

キツネはブドウについての知恵があったので、そのブドウがまだ収穫する時期にはないことがわかりました。

農夫にそのことを伝えると、彼はとたんに不機嫌になりました。

農夫は若く、未熟者で、キツネからブドウについて教えられることに我慢がならなかったのです。

 

農夫はブドウを指さすキツネを撮影し、その画像とともに以下のつぶやきをTwitterに投稿しました。

 

「近所のキツネwww

 ブドウがまだ熟れてないとか言ってきたwww

 手がとどかないのが面白くなくて言ってるのがミエミエwwwww

 嫉妬wwwwwwwww」

 

ツイートはたちまち拡散され、キツネのもとには誹謗中傷と罵詈雑言が殺到しました。

 

気をよくした農夫はオフ会をひらき、収穫したブドウを参加者にふるまいました。

ブドウはすっぱくて、食べられたものではありませんでした。

誰もがキツネが正しかったのだと悟りましたが、人びとは自分の非を認めたくなくて、「あまい」「おいしい」「こんなにうまいブドウは食べたことがない」と白々しくつぶやくか、気まずげに沈黙するしかありませんでした。

 

そんななかにも、心ある人たちはいました。

かれらはブドウがすっぱくて食べるに値しなかったこと、キツネが正しく、農夫がまちがっていたことを投稿し、それにつづく人が次々にあらわれました。

専門家は農夫の投稿した画像を分析し、ブドウが収穫する時期になかったことを証明してくれました。

 

キツネの名誉は、おおよそ回復されました。

あくまでもまちがいを認めない人や、ろくに事情を知らない人から、その後もひどいリプライがくることがありましたが、逆に彼らが「情弱」と笑いものになるだけでした。

 

農夫は自分を糾弾してくるアカウントをことごとくブロックして対抗しましたが、やがて鍵アカになり、ついにはアカウントを削除して逃亡してしまいました。