むかしむかし、ある田舎に、一匹のネズミが住んでいました。
ネズミは土に落ちた大麦や、芋のつるを食べて、つましく暮らしていました。
ある日、都会に住むネズミがやって来て言いました。
「そんな食事はもうやめて、いっしょに都会へ来ないか。美味しくて栄養のあるものが山ほど食べられるぞ」
田舎のネズミは都会のネズミに連れられて、町へやって来ました。
たしかに見たことのない美味しい食べ物はたくさんありましたが、人につかまりそうになるわ、猫におそわれそうになるわ、車にひかれそうになるわで、まったく生きた心地がしませんでした。
「ここにいたら命がいくつあっても足りない。やはりぼくは田舎へ帰るよ」
田舎のネズミはそう言って地元へもどりましたが、農家の害獣駆除に遭って亡くなりました。
このおはなしは、命の危険という点において、田舎も都会もそう大きなちがいはないのだということを、われわれに教えてくれます。