日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

田舎のネズミと都会のネズミ

むかしむかし、ある田舎に、一匹のネズミが住んでいました。

ネズミは土に落ちた大麦や、芋のつるを食べて、つましく暮らしていました。

 

ある日、都会に住むネズミがやって来て言いました。

「そんな食事はもうやめて、いっしょに都会へ来ないか。美味しくて栄養のあるものが山ほど食べられるぞ」

 

田舎のネズミは都会のネズミに連れられて、町へやって来ました。

たしかに見たことのない美味しい食べ物はたくさんありましたが、人につかまりそうになるわ、猫におそわれそうになるわ、車にひかれそうになるわで、まったく生きた心地がしませんでした。

「ここにいたら命がいくつあっても足りない。やはりぼくは田舎へ帰るよ」

田舎のネズミはそう言って地元へもどりましたが、農家の害獣駆除に遭って亡くなりました。

 

このおはなしは、命の危険という点において、田舎も都会もそう大きなちがいはないのだということを、われわれに教えてくれます。