日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

クィアK

・『クィアK』は昔書いてお蔵にした戯曲のタイトルである。元の台本に日付を書き込んでないので、どれだけ前に書いたか不明だが、キャストに磯貝、平山、川口、高橋を想定して書いたので相当前、2000年代前半であるのはまちがいない。わからない方のために説明すると、上記四人は前いた劇団の旗揚げメンバーで、現在も役者をつづけているのは平山のみである。かれこれ十年前!
・いつもの自作よりは短めで、というよりちょっと長めの短編で、特に上演するアテもなく書いたものだった。もっぱら俳優・磯貝鋼介が見たくて書いたのだ。上手い役者だった。なのに演出やる時は役者にまで集中できないと言って頑に出演しようとしなかった。『サクリレギア』なんて磯貝に主演してほしくて書いたのだが、それでも駄目だった。いろいろあって、同作のあと磯貝は退団した。「情熱がなくなった」という理由だった。今でこそ言いたいことはある。その情熱ってのは何に対しての情熱か。何処に向けての情熱か。そもそも自分たちと共有できていた情熱だったのか。だが当時の自分はおろおろするだけで、けっきょく彼は劇団を去った。そんなこんなで、この台本もなんとなく棚上げすることになったのである。
・この原稿を読んでるのは川口だけで、当時の感想は「あんまり面白くないですね。よくあるじゃないですか、内田春菊とか」だった。春菊さんかどうかは別として、どうにも理屈っぽいのは確かに反省点だった。あと川口には悪いが、川口を想定して書いた役が不要である。これを削って、理屈っぽさを解消し、男二人と女一人の三人芝居にしたら、すっきりして面白くなるんじゃないか……と思ったきり数年、アユム君から「視点」のお話をいただいたとき、このタイトルが急浮上してきたのは言うまでもない。
・元の台本は読み返さずに、タイトルだけ置いて、完全に書き下ろすつもりでいたのだが、ついつい読み返しちまったぜよ。ていうのは、ラストを完全に失念していたからである。読んでみたら、ああ、俺、こんなこと考えてたのか……って感じ。なんにしてもルデコの装置には限界があるし、考え方もいろいろ変わってるので、まんまは無理ですな。
・来年『昆虫系』を再演するのもそうだけど、原体験にひとつひとつケリをつけていこうとしてるんだなと思う。他人事のようだが、こういうことって後から気づくものなのだよ。現時点で『クィアK』がどんな芝居になるのかはわからない。けどそれはきっと自分なりの「過去への回答」のようなものになるだろう。我ながら楽しみである。