日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

なぜブログを更新できなかったか

・「高木さんの作品を寺十さんが演出したら面白いんじゃないか」と言い出したのはテツタさんである。『暗黒地帯』の打ち上げの席だった。tsumazuki no ishiは観ていたし、俳優としての寺十さんにリスペクトもしていたが、自作を演出していただくという発想はまさかなかったので、そのときはただ恐縮するだけで終わった。
・一方で自分には再演したい三冊の台本があり、それをできれば自分以外の人に演出してほしいという希望があった。自分の軸足はあくまでも脚本家にあるから、優秀な監督や演出家に自作を立体化してもらう快楽は捨てがたい。遅筆ゆえ新作を演出していただくのは気が引けるので、外部から演出を招くなら再演と決めていた。もし寺十さんに演出していただくなら、三本のなかから『昆虫系』であるのに迷いはなかった。それは実物をご覧いただけばきっとご理解いただけると思う。こういう話は待っていても始まらず、思い立ったら自分で動くしかない。寺十さんに正式に演出のオファーをし、2009年の終わり頃には話が具体的になっていた。それからは『不滅』や『視点』をはさんであっという間である。今日はもう稽古最終日。
・なかなかブログを更新する気にならなかったのは、多忙もあるが、なんだか幸せだったからである。自分にとって文章とは、怒りであったり、攻撃であったり、告発であったり、まあようするに心穏やかであれば書く必要もないもので、ゆえに書くことがなかったのだ。あと、なにか書いたらついはしゃいでしまいそうで、自制がはたらいた。稽古中に43歳になった。もう恥をかき捨てに出来ない年齢だし、かいたらまわりに迷惑がかかる。心を落ち着かせる時間が欲しかった。以上、言い訳。とりあえず小生の近況を知りたい方はツイッターでフォローしてください。
・稽古は順調だった。寺十さんの演出は的確で、発する言葉も役者の生理を理解しきったものばかりであり、ことごとくがそれぞれの俳優の身体にすんなりと落ちていく。ホンの読み込み方も作者以上で、こちらが発見させられる事も多々あった。俳優たちも全員が第一線のプロであり、世代を超えた交流が実現できたのはうれしかった。宴席で寺十さんや前川さんの話を前のめりになって聞いている大柿君の姿を見て、この座組を組んで本当に良かったと思った。これを幸福と言わずしてなんと言う。
・初演の頃のことを思い出す。劇団は過渡期で、まあいろいろなことがあった。公演後、メンバーが五人辞めた。「そういうのってたいがい演った作品がひどかったときなんですけど『昆虫系』は面白かったので驚きました」と初演時の映像を見たある女優が言ってくれた。集団が疲弊したときはそういうことも判断できなくなるのだ。それから数年粘ったが、けっきょく自分も辞めてしまった。いまではみんなバラバラで、今回の再演を観に来てくれそうなのも数人である。不幸のなかで生み出された作品をそのままにしておくのは可哀想だ。だから幸福な状態で生み直す。それが今回の最大のモチベーションだし、試みは成功しつつある。
・そんな次第で、あとは「観に来てください」と申し上げるほかない。拙作を褒めるのは得意でないのだが、今回ばかりは心から観てほしいと思う。たぶん観ないと損。ほんとうに。あらゆる意味で贅沢な芝居である。『昆虫系【改訂版】』、7/27(水)から開幕です。チケットのご予約はこちらから。