日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

忙しいなか芝居を観た

・仕事がたいへんなことになっているが、どうしても観たくて二本の芝居を観た。
・一本はTheatre Polyphonicの『悪魔の絵本』である。これが旗揚げ公演だが、台本は谷君の書き下ろしだし、良い役者はそろってるし、主宰の石丸さんの企画、演出の力量は相当なものだと感じさせられる。
感想はツイッターで述べたが、付け加えると、作品に谷君の人生が滲んでるようにも見え、自分はそこがとても良かった(主人公の生年が82年の設定で、谷君と同い年)。「その人にしか書けない作品」こそが素晴らしいと思うからだ。市井紗耶香の演技には賛否あるようだが、初舞台にしてはよくやっていたと思う。あと岡田あがさが素晴らしかった。かたちでなく、ああいう人間を体現している。こんな芝居が出来る若い人は貴重である。
・もう一本はstudio saltの『buzz』。女子高生コンクリート詰め殺人事件をモチーフにした作品である。この事件を題材にした演劇には零式の『パイソンの足』などがあったが、自分は見ていない。
・本作に感心したのは、主人公を事件の当事者ではなく、当事者の兄にしたところで、「すぐそばにいたのに助けられなかった人間の罪」を問うているところである。現実の事件でも周辺の人間が何を思っていたのかは興味あるところだったので、そこに着眼されたのは正直「やられた」と思った。深刻な題材だが、登場人物に対する作者のまなざしはあくまでも優しく公平である。時間もタイトに80分、ウェットになる直前でスパッと終わらせる。抽象セットの使い方も見事で、自分はすっかりこの作者のファンになった。
・そんなこんなで自分も頑張ろうと思いましたと。仕事します。