日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

公演終了

・全日程終了いたしました。ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。
・良くも悪くもいびつな台本になってしまい、稽古の最終日までいじったりしてたのですが(主に削っていた)、楽日に見に来てくれたゲイの友人が「『クィアK』のときも思ったけど、自分をアイデンティファイすることに時間をかけてる人の話だなと思った」と言ってくれて、彼にそれが通じたのならば自分としては満足でした。ある意味『クィアK』のときの一部反応に対する反論として書いたところもある一作だったからです。
・前回の『昆虫系』はお祭りで、今回は通常営業にもどったわけですが、お祭りの方を全否定する方もいれば、通常営業に否定的な方もいて(そう言われても困るんだけど)、外部の方に演出をお任せするのもいろいろ問題なんだなと思いました。大塩さんとかどんな感じだったんだろうな。いちどお話ししてみたい。
・寺十さんの演出に満足していることはあちらこちらで述べてますが、自分だったらやらないことが多数あったのは事実です。『昆虫系』の際、寺十さんのご意見で面白かったのは最初にトイレを設定しようとしたこと。自分のそもそもの台本にはトイレの指定がないのです(販売用台本はそこを汲んだうえでのものなのでトイレの指定が入っています)。単純に「排泄」のイメージが嫌なのね。あくまでも自分が書く上においては、です。ゲロは上からだから自分のなかでは排泄じゃないのよ。わかるだろうか、この違い。これが「自意識」ってやつなわけですが。本番で宮島さんがオナラするところがありましたが、こういうのも自分だったら天地がひっくり返ってもやらない演出です。でも寺十さんにお任せしてるわけですから、彼の感覚で演出していただかなければ意味ないし、そもそもが好きでお招きしてるわけなのでなんの不満もないわけです。ここらへんを理解できない方がおられるのですが、許容範囲には個人差があるので、これを批判されても困るし、自分もそちらの了簡が狭いなどとはまちがっても思ったりしません。違わなければ意味ないし、嫌なら最初から自分でやりゃいいわけでね。
・今回は自分の演出なので、あくまでも自意識に従ってディレクションしました。こういう内容であるにもかかわらず生活感のあるものは徹底的に排除。ティッシュとかコンドームとかゴミ箱とか置いたらどうかという意見もあったのですが、すべて却下。脱ぐのもなし。役者を脱がせるのは好きじゃないのです。最後の場で実近君が半身脱ぐのですが、宮嶋さんと実近君から「頼むからこれだけは」と懇願されてOKしました。まああれくらいならギリギリかなと。最初の方の宮嶋さんと外山のレズシーンもエロすぎるんじゃないかと当初は心配だったのですが、見てるうちにこれは大丈夫だなとOK出しました。これはもっぱらふたりのキャラクターによりますが、ようするに現実感があまりないのですね。アニメのキャラが行為しているような、そんな感じ。制作の島田さんが台本を読んだ当初「この芝居は結婚前の人には見せたくない」と言っていたのが(制作なのに!)、本番を観て「台本を読んだときに感じた毒が良い感じで薄くなっている。今回は役者の勝利だと思う」と言ってくれたり、拙作に対して「引く」と批判的だった因幡屋通信さんが認めてくれたりしたのもそこらへんが原因かなと思っていたりします。お客様から「不思議と嫌らしい感じがしない」と言っていただけたのは本望で、見た目のインパクトではなく言葉が残るようにしたかったのです。セクシュアリティの問題は、けっきょく言葉で説明しなければわかりません。単純に恋愛に収斂するだけの問題ではないからです。
・自作の特徴ってのが実はよくわかってなかったりします。毎回題材もちがえばアプローチもちがうからですが、今回とりわけ宍戸さんの人気が高かったのを見て気づいたことがあります。自分はアイドル映画が好きなのです。特に角川の。今日ではああいう世界観にアイドルを置きたがる事務所も少ないのか滅多に見られませんが、酷薄な世界に凛とたたずむ美女、美少女というスタイルが好みなのですね。そうして振り返ると自分のキャスティングははっきりルックス重視ですし、自作は皆そんな構成の話ばかりなのでした。『暗黒地帯』でいえば加藤、『不滅』でいえば板倉美穂、『昆虫系』では神農さん、そして今回はそのポジションを担ったのが宍戸さんだったということなのだと思います。ホン書いてるときも演出してるときも気づかず、お客様の反応に驚いてから気づいたという。無意識に支えられている我が才能です。
・次回は自身の家系をモチーフに書こうと思います。母の生家は八人兄弟で、末子が産まれた直後に母親が亡くなり、兄弟を育てられないと判断した父親は全員を養子に出し、八人兄弟は離散しました。そうして祖母に引き取られたのが母だったというわけです。祖母は花柳界のひとだったので母に自由恋愛を許さず、はなからそれなりの男性のお妾さんにするつもりでおり、じっさいそうなったのですが、自分(高木)が産まれた直後に父の事業は倒産、その作戦は失敗し、母は別の男性と結婚するもいろいろあって自分を引き取らず、けっきょく自分は祖母の養子になり祖母とともに暮らすことになりました。祖母が亡くなってからはひとり。父、母、双方にはそれぞれの家庭がありますが、縁は遠いです。「高木さん、実家は?」と聞かれるのがいちばん困ります。たぶんここが実家です。あるいは実家はありません。そんな自分の「家族」というものに対する想いを込めた作品にするつもりです。ただしストーリーはあくまでも虚構です。タイトルは『荒野1/7』。「家族」と聞いて脳裏に浮かぶのは荒野、ただそれだけなのです。キャストは九割決まっており、皆組むのが楽しみな方ばかりです。どうか八月にご期待ください。