日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

細田刑事・音信不通の男

・『暗黒地帯』出演者で、ただひとり年賀状を寄越さなかった男、刑事。九人しか客を呼ばなかった男、刑事。そんなわけで奴の近況など知る由もなかったのだが、アイビィーの発表会には出ないらしいと聞かされ、迷走しそうにもないパーソナリティなのに迷走しつづけるのは相変わらずだと感心させられた。何処へ行く、刑事。そもそも妄想の劇団はどうするつもりなんだ。近く金沢君に会う予定なので、たっぷり聞かせてもらうことにしよう。
・録画したまま放置してあった山本迪夫の『雨は知っていた』を見た。『血を吸う眼』の併映作。山本監督といえば「血を吸う」シリーズ、ホラーのエキスパートという印象があるが、日本版「ファンゴリア」に載ったプロデューサーの田中文雄のインタビューを読むと(何号だったか失念)、山本はもっぱらスリラーやサスペンスがやりたい人で、ホラーにこだわってたのは田中の方だったという。言われてみれば、山本はその後ほとんどホラーを撮っておらず、田中は小説でホラーを書き続けた。田中脚本、山本演出で「血を吸う」シリーズのセルフリメイク的な短編が撮られたことがあったが、それはリメイクというよりセルフパロディのようなもので、現場スタッフと山本の間にはかなりの温度差があったと聞く。山本の生前に一部、山本のホラーが見たいとか、ぜひホラーを撮らせてやってほしいなどという論調を見かけたが、実態はそういうことで、実情を知らずに思い入れだけでものを語るのは危険だとつくづく思う。『雨は知っていた』は、だからむしろ山本が本来撮りたかったフィールドのもので、スリラー演出は達者で怖いし、シナリオ(石松愛弘長野洋)もしっかりしてるし、プログラムピクチャーとしては標準作だろうが、これがたとえば現在の二時間ドラマ枠でオンエアされたら事件だろうな。往時の日本映画界(これでも斜陽期)の職人技を見せつけられた気がする。『悪魔が呼んでいる』(『血を吸う人形』の併映作)もぜひ見てみたい。