日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

夢枕

・近所の野良猫がひどい下痢で、深刻な状態になる前に医者に連れていってやろうとしたが果たせず、一晩待って保護しようと思ったところが、夢枕にこないだ亡くなった猫が立った。ひどく立腹した様子である。猫は口をきかぬので意思の疎通は瞬時であるが大意はこうだ。
「何を怒つてゐるのだ」
「此方が亡くなつて納骨も済まさぬうちに新参の猫を拾ふのは了見が違ひませう」
「不健康な猫を拾ふのが不了見かね」
「全体不健康な飼主ほど迷惑な者はをりません」
「私が不健康だといふのかね」
「猫がゐるから手術が出来ないと恩着せがましく言つてゐたではないですか」
「をまへに言つた心算はない」
「厭でも聞こへるものです。先ずは御自分の故障を直すのが先決でせう。飼はれてから倒ふれられても難儀です」
「放つてをいても平気なものかね」
「平気な者は平気だしさうでない者はさうでないでせう。猫も人と同じで天寿天命があり長寿の者もをれば短命の者もをります。事故に遭ふ者もをれば殺される者もをります。縁ある猫ならば屹度生き延びませう」
・そんな次第で起きてすぐに聖路加に予約を入れたのだった。仕事が落ち着いたらとっとと手術をしてしまうつもりでいる。