日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

てなことを書いておきながらなんだが、

・さっぱり仕事が手につかない。人生初の大地震を経験し、津波の映像を見せられ、原発事故の恐怖をすぐそこに感じながら平生通りの営業感覚は持てないわ。もろい人間だと思う。けどそんな自分だからこそ書けた作品によってここまで来たので、なんというか、作家というものは厄介なものだと、他人事のように自分を見ている。
・友や仲間の公演がある。武田の『愛する生活REMIX』は明日から決行。瀬戸山さんが役者として参加しているelePHANTMoonの『劣る人』は初日を金曜に延期した。MUの『無い光/変な穴』はいまのところ予定通り上演するようだ。『昆虫系』に出ていただく栗原茂さんのホームグラウンド、流山児☆事務所のアトリエ公演も予定通り。この先も神農さん大柿君出演の公演や、前川さん作・演出・出演の公演もある。『昆虫系』は四ヶ月先だが、いろいろとどうしたものか頭が痛い。七月はどうなってるのか、まるでわからないのだから、粛々とやるべきことをやっていくしかない。
・と、これ書いてる間に静岡で震度六強。こちらは震度三だそうだが、体感はもっと大きかったような。なんにしても落ち着かない。
・11日は自宅にいたのである。「お、地震」、「お、ちょっと大きい」、で仏壇の横の花瓶を床に下ろしたところへ、あの揺れが来た。廊下の本棚は転倒、床に積み重ねた本は崩れ落ち、リビングに閉じ込められた格好。玄関に到るのに夕方までかかった。リビングの棚や家具、キッチンの食器棚や冷蔵庫は倒れなかった。耐震器具をとりつけていたからである。いざというときに猫が犠牲になって欲しくなくて準備したものが幸いした。死してなお、あの猫は自分を救ってくれている。
・けど本の威力はたいへんなもので、猫なら下手すりゃ圧死だった。あれが亡くなった後で良かったし、新しい子を迎える前で良かった。もしものことがあったら、一生立ち直れなかったと思う。そんなわけで蔵書はことごとく売り払うことにした。昨日今日で古本屋さんを六往復したが、まだまだ焼け石に水。当面、これを日課にする。
ツイッターでは「不謹慎」議論がおこなわれている。だがこれは議論しても仕方ないものだと思っている。だってこれって、おのおのが「死」に直面したとき、どのように処するかという問題じゃないか。粛然と死んでいきたい者もあれば、悲しみを抱えて逝きたいという者もあれば、最後まで笑いやユーモアを忘れずにいたいという者もある。それだけのことである。そう、われわれはいま「死」に直面している。とまどいながら、おびえながら、ただ前を向くだけである。