日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

『フォトジェニック』終了

・遅くなりましたが、ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。今回は本公演でないこと、狭い劇場であったうえに先行販売、前売が好調であったことなどから、身内でも主に大人組の方にはあまり積極的にご案内はしておりませんでした。その点他意はございませんので、どうかお許しください。
・本チラシ撮影の際、詩森さんが「男性客がたいへんなんじゃないですか」と仰っていて、「そんなもんかなあ」と他人事のように考えていたのですが、蓋を開けてみたら連日8〜9割が男性客という有り様でした。「観劇おじさんエクスプロイテーション」という言葉が脳裏に浮かんでは消えましたが、そういうことを意図してはいなかったものの(ほんとに)、「こういう公演の在り方も時にはアリだな」とは思った。毎度「芸術」と「芸能」の狭間でものを作っている自覚ある身からすると、こうした企画のうえでやりたいことをやるのは決して邪道ではないと思いました。
・もともとは去年の今頃、奥野が2016年の後半なにも決まっていないと言い、堤さんは堤さんで予定がなく「芝居したーい」とツイートしてたので、「じゃあ何かやろうか」と始まった企画でした。短編集の延長で、小さな小屋でこぢんまりした企画をと梟門を押さえたまではよかったものの、五月の『悪魔を汚せ』が望外の好評で、おのずとこの公演が注目されてしまい、「こぢんまり」とはいかなくなってしまった。連日の盛況で、不自由な客席。今回の最大の反省点ですが、こればかりは事前に想定できるものではありませんでした。もうしわけございませんでした。
・今回の主眼は「映像を使う」ことと「告知していない出演者がいる」ことです。前者に関しては、演劇でやるのは映画の真似みたいで抵抗があったのを、「いっそ映画みたいにしよう」と、手塚悟監督の力をお借りしてみました。手塚さんには重なる直しに何度も応じていただき、感謝の言葉しかありません。ありがとうございました。
・ここまで女優押しで来てるのだから、映像キャストもすべて女優さんにして、かつ伏せようということにし、ハマカワフミエさん以下、真嶋一歌さん、井神沙恵さん、青山祥子さん、笠島智さん、とみやまあゆみさんにご出演いただきました。ハマカワ自身「盛ってますよね?」と言っていたOP映像は大晦日の撮影で、中野のたこ焼きバーの一角(!)とはとても思えない仕上がりになっています。ハマカワの良いところがすべて映っており、見逃された方にお目にかけられないのが残念です。真嶋さん、井神さん、青山さんの「死体」写真撮影はクリスマスにおこなわれ、手塚さんから写真が送られてきたときにはお三方のあまりのノリのよさに感激したものです。特に井神さんの撮影はクリスマスイヴで彼女の誕生日、そんな日にあんな写真を撮らせてもらい、恐縮至極でした。笠島さんはいちどご一緒したかった方で、念願叶ってうれしかったです。わずかな映像からでも芝居の巧さがわかり、加瀬も瞠目していました。とみいはとみいで、彼女の演技にある「そこはかとないユーモア」が映像でも健在で、あのパートが流れるたびに愉快でたまりませんでした。
・そして特殊出演(としか言いようがない)の福永マリカさん。今回のもう一つの主眼の最たる存在です。これに関して「結末は決して話さないでください」という類いのことは当日パンフ等でもいっさい書かず、SNS等で告知もしませんでした。それでどこまで伏せられるものか、見てみたかったのです。結果的に、全公開でこのことについて触れた方はひとりもおられず、やはり通じるものは通じるし、お客さんはもっと信用して良いのだという確信を得ることが出来ました。福永さんの出演場面に関しては自分もツイッターに書きましたし、ご本人もブログに書いているので、そちらをご参照ください。
・メインキャストはみなさん好演でした。今回の表テーマが「女優を見せる」なら裏テーマは「橋本恵一郎は良い役者であることを見せる」だったので、半ば目論見は達成したのではないかと思っています。橋Kの良さ、巧さが伝わっていれば幸いです。本人は頑なに見ようとしませんでしたが、映像でも良い感じで、現場スタッフにもとても好評でした。小崎さんとのご縁を話し出すと長いですが、以前から「うち向きだ」と思ってましたので、出演叶って光栄でした。いきなり狂気の美青年役で負荷多大でしたが(ほんとに)、みごとにこなしてくれました。堤さんは二度目のご出演で、前回もそうでしたが、とにかく見ていて飽きない方です。はっきり言ってかなりヒドい女性像なのですが、堤さんのおかげでそれだけでは終わらない人物になったように思っています。終演後の宴席で「(堤さんが演じた瑠衣について)価値観も考え方もまったく異なるが友達になれそうな気がする」とハマカワと福永マリカが熱く語りあっている横で「わたしは嫌いです(笑)」と言ってた堤さんが印象的でした。川添さんは普段のお人柄とは裏腹に幸薄い役がハマるとわかっていたので、実に気の毒な女性を演じていただきました。特に怯えるさまに感心しました。鶴田法男監督がよく仰っていますが、怯える演技は難しいんですよ。鶴田さんに見せたかったなあ。絶品でした。奥野は最近は硬い役が多かったので、今回は笑いどころもある役にしてみました。顕史郎さんが「わかるけど、『これどうやれっていうんだ!?』っていう役だが、よくやっている」と言ってましたが、自分も同感です。次はどんな役になるのか、どうかご期待ください。
・そして本日は奥野亮子が入団して一周年になります。彼女が入ってくれて団体が活性化したところが確実にあり、一年どころか五年一緒にやってるような感じがしますが、この先もおなじような歳月が重ねられると良いなと思っています。今後ともよろしくお引き立てのほど、お願い申し上げます。
・トライアルと称してエンタメ寄りになるのは自分でも愉快でしたが、ようするに今回は大人が全力で遊んだ結果です。ともにお楽しみいただけたなら幸甚に思います。
・今回は書き足りないことばかりですが、キリがないのでこの辺で。すべてのスタッフ、キャスト、ご来場いただきました皆様にあらためて感謝いたします。ありがとうございました。ひきつづいての写真展にもご期待ください