むかしむかし、ある浜辺で、一匹の海亀が子どもたちにいじめられていました。
そこへ浦島太郎という漁師が通りかかりました。
太郎は子どもたちを追いはらい、亀をたすけました。
亀はお礼に太郎を竜宮城へ連れていくと言いましたが、
「八十歳になる母の介護があるからダメだ」
と断られました。
後日、また亀が子どもたちにいじめられていました。
そこへ通りかかった男が、亀をたすけました。
亀はお礼に男を竜宮城に誘いましたが、
「これから仕事の打ち合わせがあるからダメだ」
と断られました。
さらに後日、また亀が子どもたちにいじめられていました。
そこへ通りかかった男が、亀をたすけました。
亀はお礼に男を竜宮城に誘いましたが、
「帰りが遅いと妻に叱られるからダメだ」
と断られました。
亀は悟りました。
ここの人びとは生活に追われていて、亀の恩返しにつきあう余裕はない。
せいぜい子どものいじめから守ってくれるくらいで、亀と対等につきあう気はない。
仕事も身寄りもない亀は、たったひとりで生きていくしかないのだと。
亀は浜辺を去り、二度と姿をあらわしませんでした。
竜宮城はますます栄えましたが、そのすがたを見た者は誰もいません。