日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

金太郎

むかしむかし、ある山に、若い夫婦が住んでいました。

夫婦には金太郎という五歳になる男の子がいました。

金太郎はおそれを知らず、親のまさかりを奪い、動物たちにたたかいを挑みました。

夫婦が飼っていた犬を殺し、猫を殺し、それだけでは飽き足らず、山に住むウサギを殺し、鳥を殺しました。

夫婦は息子の冷酷さを嘆きましたが、金太郎はやめませんでした。

動物たちは金太郎をおそれ、まったく近寄らなくなりました。

 

ある日、山にクマがあらわれました。

おそれを知らぬ金太郎は、クマに向かっていきました。

けれど幼児はクマの敵ではありませんでした。

その場には血にまみれた「金」の前垂れだけが残され、ついに遺体はみつかりませんでした。

 

この痛ましい事件のしらせは、たちまち全国をかけめぐりました。

クマは地元の猟友会によって駆除され、現場には金太郎を慰霊する像が建てられました。

碑銘には「金太郎ちゃんを忘れない」と刻まれています。

 

また、自治体は「金太郎ちゃん募金」を設け、クマに襲われて亡くなった被害者の家族に、その収益金が分配されています。

桃太郎

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

おばあさんが洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。

おばあさんは桃を持ち帰り、おじいさんといっしょにふたつに切りました。

すると中から、元気な赤子が出てきました。

ふたりは赤子を桃太郎と名づけ、わが子として育てることにしました。

 

桃太郎はすくすくと育ちました。

けれど、桃から生まれたことがわざわいし、人びとからさげすまれ、からかわれつづけました。

桃太郎は素直な心を失い、世を拗ねた大人になりました。

仕事にも就かず、毎日遊んでばかりいました。

「なぜ桃から生まれたことを隠さなかったのだ」

「なぜ桃太郎などというふざけた名前をつけたのだ」

おじいさんとおばあさんを責め、ときに暴力をふるうこともありました。

 

おじいさんもおばあさんも、そんな桃太郎を嘆きながら亡くなりました。

二人がいなくなった家は荒れ果て、訪ねる者もいなくなりましたが、桃太郎はおかまいなしに、そこで暮らしていました。

 

ある夜、桃太郎が寝ていると、夢枕に菩薩が立ちました。

菩薩は言いました。

桃太郎が素直に育っていたなら、犬と猿と雉を供にして、鬼ヶ島の鬼たちを退治し、その財宝を奪い取って、故郷に錦を飾る人生もあったのだと。

もはやその機会は失われたが、いまからでも改心し、人に尽くす人間になる努力をすれば、悪評を好評に、不利を有利に変えることもできるのだと。

「そんなバカな話があるものか。桃から生まれた人間の苦労など貴様にはわかるまい。俺は生涯自分のために生きるのだ。他人のために一刻も割くつもりはない」

桃太郎は笑って取りあいませんでした。

菩薩は悲しげな顔をして、そのまま消えました。そして二度と夢枕に立つことはありませんでした。

 

桃太郎はその後もその日暮らしをつづけましたが、流行り病にかかり、五十五歳で亡くなりました。

浦島太郎

むかしむかし、ある浜辺で、一匹の海亀が子どもたちにいじめられていました。

そこへ浦島太郎という漁師が通りかかりました。

太郎は子どもたちを追いはらい、亀をたすけました。

亀はお礼に太郎を竜宮城へ連れていくと言いましたが、

「八十歳になる母の介護があるからダメだ」

と断られました。

 

後日、また亀が子どもたちにいじめられていました。

そこへ通りかかった男が、亀をたすけました。

亀はお礼に男を竜宮城に誘いましたが、

「これから仕事の打ち合わせがあるからダメだ」

と断られました。

 

さらに後日、また亀が子どもたちにいじめられていました。

そこへ通りかかった男が、亀をたすけました。

亀はお礼に男を竜宮城に誘いましたが、

「帰りが遅いと妻に叱られるからダメだ」

と断られました。

 

亀は悟りました。

ここの人びとは生活に追われていて、亀の恩返しにつきあう余裕はない。

せいぜい子どものいじめから守ってくれるくらいで、亀と対等につきあう気はない。

仕事も身寄りもない亀は、たったひとりで生きていくしかないのだと。

 

亀は浜辺を去り、二度と姿をあらわしませんでした。

竜宮城はますます栄えましたが、そのすがたを見た者は誰もいません。 

『夜会行』終演(1)

・すっかり公演の告知と後書きに特化した当ブログ、とはいえこの後配信公演があるのでネタバレ全開でも書けないし、作品解説的なことは販売用パンフレットで書いたり語ったりしたので、実はそんなに書くことがあるわけでもない。とりあえず何回かに分けようかしら。というわけで(1)にしたのだけれど、(2)はいつになることやら。

・女性版の『真夜中のパーティ』をやろうとしたわけですが、時代もちがい、国もちがえばおなじものになるわけはなく、かつおなじにするつもりもなかったわけなので、このような作品に。ちなみに昨年JAT主催でおこなうはずだった公演の最初の仮題は『ガールズ・イン・ザ・バンド』でした(『真夜中のパーティ』の原題は“The Boys in the Band”)。それだと露骨すぎるのと、白井晃さん演出で新訳の『真夜中のパーティー』が同時期に上演されることになっていたので、いくらなんでもアレだなと思い、『その日、あなたは真夜中の部屋で』という穏当なタイトルに。上演中止、規模縮小で鵺的で上演となったときにうんうん唸って考え、『夜会行』というタイトルに落ち着きました。ちなみに70年製作ウィリアム・フリードキン監督版『真夜中のパーティー』はTSUTAYA復刻ライブラリーで発売中、2020年にライアン・マーフィー製作によってリメイクされた『ボーイズ・イン・ザ・バンド』はNetflixで見られます。オリジナルへのオマージュは「誕生パーティーの一夜の話」ということと「電話」の二点。

・もっぱらコミュニケーションの断絶を描いてきた自分が、わかりあおうとすること、支えあおうとすることを意識して描いてみたのは、この一年で思うところがあったからです。とはいえ今までだって書いてきてるんですよ。問いかけの仕方がラジカルだったり扇情的だったりしただけで。そんな最近の作品と比べて『夜会行』がこのようなタッチになった理由は販売用パンフレットで述べました。

・今回は今まで以上に山田太一さんを意識しました。山田さんの作品に登場する人物たちは、とにかく人と関わろうとするんですよ。そこまで行ったら狂気の域じゃないかと思うときもあるほど。小浜逸郎さんは山田作品を読み解くキーワードとして「おせっかい」をあげていましたが、その通りだと思います。ハマカワさん演じる廣川の、

「わたしたち、あんたたちの前で裸になってんだからさ、最後まで見ててほしい。いろいろ言うんだったら、とことん関わってほしい。」

というセリフは、山田さんの影響下にあるものです。廣川のあの一連の行動を自分はまったく正しいとは思いませんが、彼女の浅はかさを責めるだけにせず、愚行があらたな希望を生むかもしれないという可能性を残そうと思ったのは、作者である自分自身もいつも以上に登場人物たちに関わろうとした結果だと思います。突き放さずに、寄り添うことを意識して書いてみたんですね。

・さて、未見の方には書きすぎたかもしれません。とりあえず後書き第一弾はここまで。『夜会行』、24日から映像配信開始なので、ご興味ある方はぜひ。配信が終わった頃に、また何か書きます。書かなかったらすみません。まずはご来場いただきました皆様、本当にありがとうございました。

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夜会行

・というわけで新作の情報公開である。明日は優先予約開始ですって。話したいことは多々あれど、とりあえずは劇場で御披露目できることを願います。「化粧品の広告のようなヴィジュアルがかえって怖い」とか「このイメージを盛大に裏切ってくれることを期待してます」というご意見を見かけましたが、ごめんなさい、このヴィジュアルから受けるイメージ通りの芝居を作るつもりでいます。市井に生きる五人の女性の話です。そこには闇もなく魔もおらず、誰のものとも変わらぬ当たり前の時間が流れているのです。以下詳細。

 

鵺的第14回公演
サンモールスタジオ提携公演
『夜会行(やかいこう)』
作  高木登(鵺的)
演出 寺十吾(tsumazuki no ishi)
2021年7月1日(木)~7日(水)
サンモールスタジオ
160-0022
東京都新宿区新宿1-19-10 サンモール第3M-B1

[キャスト]
青山祥子(贅沢貧乏)
奥野亮子(鵺的)
笠島
ハマカワフミエ
福永マリカ

[スタッフ]
舞台監督 田中翼・伊藤新
照明 阿部康子
音響 岩野直人(STAGE OFFICE)
音楽 坂本弘道
舞台美術 袴田長武+鴉屋
アンダースタディ 寺田結美
演出助手 中山朋文(theater 045 syndicate)
宣伝美術 羽尾万里子(Mujina:art)
宣伝美術写真撮影 松林満美
衣装 上岡紘子
文芸協力 中田顕史郎
舞台写真撮影 石澤知絵子
webデザイン 成川知也(MU)
映像撮影・編集 小崎愛美理・木村聡志
稽古場制作 吉水恭子(芝居屋風雷紡)
制作 鵺的制作部・J-Stage Navi
制作協力 contrail
助成 文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術創造活動活性化事業)
   独立行政法人日本芸術文化振興会
協力 芝居屋風雷紡/贅沢貧乏/フロアトポロジー/tsumazuki no ishi/MU/Office Enne/theater 045 syndicate/アプレ/ニコフイルム/フォセット・コンシェルジュ/C&Cファクトリー/JAT/MC企画/Mujina:art/Nana Produce/水天宮ピット/川添美和
企画・製作・主催 演劇ユニット鵺的

[タイムテーブル]
2021年
7/1(木)19:00
7/2(金)19:00
7/3(土)14:00/19:00
7/4(日)14:00
7/5(月)19:00
7/6(火)14:00/19:00
7/7(水)18:00

[注意事項]
※ 受付開始は開演45分前、開場は開演の30分前です。
※ 未就学児童のご入場はご遠慮ください。
※ 開演時間を過ぎてからのご来場はご指定のお席にご案内出来ない場合がございます。予めご了承下さい。
※ 後日公演映像配信をいたします(ソフト販売も予定)。詳細はあらためて告知します。
※ 政府・東京都の方針変更含め、急遽、公演の概要の変更、中止となる場合がございます。
※ 上演にあたり、鵺的では新型コロナウィルス感染予防・対策を行います。
劇団公式ページにて取り組みとお客様へのお願い事を掲載いたしますので
ご確認、ご承知おきの上チケットご購入、ご来場をお願い申し上げます。
鵺的公式サイト http://nueteki.org/
鵺的公式ブログ https://ameblo.jp/nueteki-info/
鵺的公式Twitterアカウント @NuetekiOfficial

[チケット]
優先予約 2021年5月15日(土)10:00~19日(水)23:59
全席指定・特典付 12000円(送料無料・J-Stage Naviのみで発売)
特典 『夜会行』公演パンフレット(単品販売あり)
特製フォトブック(非売品)
『悪魔を汚せ(初演)』公演映像DVD(観劇三昧で配信中のものと同内容・非売品)
鵺的ロゴ入り不織布トートバッグ
※特典はご来場時にお渡しします。

一般発売 2021年5月25日(火)10:00~
全席指定
前売・当日 5000円
U25割引 4000円(枚数限定・J-Stage Naviのみで販売)

[発売]
ローソンチケット
https://l-tike.com/(Lコード:32841)

J-Stage Navi  http://j-stage-i.jp
         03-5912-0840 (平日11:00〜18:00)

[問い合わせ]
J-Stage Navi 03-5912-0840 (平日11:00〜18:00)
劇場事務所 03-5367-5622(平日11:00〜18:00)

[公演当日問い合わせ]
03-3350-0335(劇場ロビー直通)

 

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