日日鵺的(新)

演劇ユニット鵺的と動物自殺倶楽部主宰、脚本家の高木登が年に二、三回綴る日々

三匹目の猫を送る


・2011年の4月から四年半飼った猫が今朝亡くなった。年齢は不詳だったが身体の状態から十五、六歳だったのではないかと獣医さんは言う。
・うちの近所の草原にいた猫で、ひどい下痢をしていたのと、柄がその年の1月に亡くなった猫とおなじだったのに縁を感じて、ボランティアさんにお願いして保護してもらったのだった。そこまでは良かったが、人間不信がひどく、エサをやるたびにこちらは傷だらけで、いちどは飼育を断念しようと本気で思ったこともあった。だが獣医さんは「それでも愛情には飢えているはずだ」という。言われてみれば、外にいたときも警戒心が強いわりには人通りの多い道の側に身を寄せていた。「こわいのにさびしいんだな」と察し、飼いつづけることにした。
・獣医さんのアドバイスで、大きなケージで飼うことにした。高さ150センチ、幅100センチ。運動には差し支えないという。その後なし崩し的に飼うことになった子猫との相性もあったのだろうが(同じ場所で野良生活をしていた)、エサをやっても徐々に攻撃してこなくなった。やがて甘えてくるようになった。最近ではケージの外に出ておとなしくブラッシングさせてくれるようになった。だが懐いてくるのは弱っているときと決まっていて、先週気温が急に下がったときから体調を崩し、週明けに入院させてそのまま逝ってしまった。
・ケージはDKにあり、メシを食うときも、トイレに行くときも、出かけるときも、帰ってくるときも、常にそこにはこの猫がいた。それがいないことに慣れない。もうずっといないのだと思うと涙が出る。残された猫も戸惑っているようだ。何をしていたわけでもないのに、自分ともう一匹の心の支えになっていたのだといまさらながらに気づく。
・火葬の際、棺に手紙を入れてほしいと言われたので、おまえを拾ってよかった、おまえがいてくれるだけで幸せだった、また近いうちに会おうと書いた。猫も一期一会である。この世でたった一匹しかいない存在をまた失った。